日本では老若男女を問わず、ほとんどの国民がマンガ好きなのは、PULP読者のみんななら当然知ってるよね。30−40代の立派なスーツを着たビジネスマンが、朝の出勤の地下鉄に乗り込み、おもむろにブランド物のアタッシュケースから『少年ジャンプ』を取り出す−それはもう、アメリカの道端でごく普通にヤクの売人が堂々と取引きをするのを見るのと同じくらい当たり前の日常的光景だ…おっと失礼。ともかく、大人であろうとごく普通にマンガを楽しむ人が多く、「マンガ好き」であるかと問えば十人中九人がYESと答えるであろうこの国で、それでは「マンガマニア」、つまり「マンガオタク」となると、これはもう半端ではない。当たり前にマンガを読むだけではオタクとは呼べないわけだ。そんなマンガオタクの世界、そのごく一部を紹介しよう。
まずは、数で勝負する「図書館型」。これは文字通り、自分の好きなマンガのジャンルのありとあらゆる雑誌、単行本を網羅する。日本の庶民の一般的な住宅…せいぜい70、80坪のウサギ小屋では物理的圧迫が強い。だからこれは物理的・経済的においてかなりの余裕が必要とされる。しかし多かれ少なかれオタクともなると、少女マンガやポルノコミックなど自分の好みのジャンルはある程度収集しているといっていいから、まだ可愛い。そうではなく、マンガならば全て集めずにはおられない…という本物の図書館型の人を知っているが、この物凄いマンガマニアの人は、日本にたった一人しかいない。
あと近年多いのが、古いマンガやプレミア本を集めている「ヴィンテージマニア」。これは、マンガ古書店のチェーン『まんだらけ』(MANDARAKE)を経営する古川益三(Masuzou Hurukawa)氏−−彼は70年代に「ガロ」や「COM」で活躍したマンガ家だ−−が、それまであまり認知されていなかったマンガ古書を積極的に高値で評価し、またその店舗でも相応のプレミアをつけて販売するということを最初に始めた人の一人だ。他にもコミック関連にヴィンテージ的価値を見出した業者はいくつか存在するが、古川氏の場合はメディアを通じてプロモーションしたり、あるいはご本人がTVのお宝鑑定番組に出演することなどによって、世間一般に「マンガもヴィンテージ足り得ること」を認知させたということが大きい。結果、GOD OF MANGA・手塚治虫クラスの40年前の稀少本には平気で数十万円から100万円の値がついたりするようになったし、作家のサインや色紙、生原稿からアニメのセル画やキャラクタ人形までも取引きの対象になった。これらを投機目的も含めて、収集するオタクも増えた。
また珍しいものでは、誰も見向きもしなかった駄作や、明らかに真面目に描いているのに笑えてしまうような通称「クソマンガマニア」。これはまだ一般には少ないが、ディープなオタクとはちょっと違い、センスが要求される一段上のエスプリのあるマニアと言えよう。(そうか?)この辺りのセンスというのを説明するのは難しい。例えばアメリカのB級いやC級映画では、きちんと時代や風俗を考証せず、日本が登場する場面で中国のドラを鳴らしたり、今だに侍や忍者が存在していると本気で思っていたり、日本人というと皆身長は150センチしかなくて出っ歯でメガネでカメラを下げてて…というのがあるよね。ああいうのを日本人はゲラゲラ笑って「やってくれるよ、ヤンキーは」と笑って楽しむのと、「あんな日本人はいないぞ」と本気で怒るのに別れるのと同じだ。何? よくわかんないって? 俺もさ。
まぁかようにディープなマニア・つまりオタクの“タコツボ化”は、もはや我々業界人にも100%のフォローが不可能だ、ということだ。
さて日本は今恐ろしい不況の時代で、首相がキザで高慢な“ポマードおじさん”から人当たりがいいだけの“冷めたピザ”に変わっても、恐らくこの景気は低迷したままだと思う。天気まで何だか低迷してて、夏の暑さはまだ来ない。日本では、90年代に入ってすぐ、ゴルフ会員権や株といった絶対的な価値のないモノに価値があると錯覚し、それに人々が踊った結果生まれた空前の好景気・“バブル経済”が崩壊した。その後、地上げされた土地は放置されたまま、野ざらしになったままか、その後に建ったものはパチンコ屋、ゲームセンター、レンタルビデオ屋、ファーストフード店などだった。こうした不景気ニッポンの中で、最近増えてきたものに「マンガ喫茶」がある。ふと気づくと、この前まで本屋やゲーセンだったところがマンガ喫茶になっている。何やら、脱サラして新たなビジネスを始める場合、今最も確実かつ人気なのがこのマンガ喫茶らしい…なんてビジネス雑誌にも取り上げられていた。
このマンガ喫茶のシステムは、大体500円前後の1ドリンクを頼めば、2時間ほど店内に用意された数千冊のマンガを自由に読んでいい、というスタイルが多い。それ以降は時間当たり50円や100円程度の超過料金を払えば、無制限に滞在してもいいという店舗も増えた。また最近はこのような店があまりに増えすぎ、店ごとに特色を出して生き残りを図るところも出てきた。例えば新宿の某店は、本格的なイタリア料理が楽しめるし、別のある店は食事をしさえすれば、営業時間内なら無制限に居てもいい。
日本人は何度も言うように、無類のマンガ好きだ。そもそもマンガは、出版業界に限らず不況に強いコンテンツと言われてきた。映画やCD、ビデオより安価で手軽だからだ。出版統計を見ても、雑誌や書籍全体の売上は落ち込んでいるのに、マンガだけは微増か、前年並みを保っている。このことは深刻な不況の真っ只中にある日本において、かなり検討していると言える。そんな日本人だから、出来るなら、自分の家に蔵書として好きなマンガを手元に置いておきたい。でも、住宅事情を考えれば物理的には難しい。それに多くのマンガ好きは、マニアでもない限り、そこまで愛着のあるマンガは少ないし、コミックなんて安いから読み捨てすることが当たり前だ。捨てないまでも、一度読んだ本は古本屋に引き取ってもらい、読みたくなったらマンガ喫茶へ行って読めばいい。なるほど非常に合理的かつ日本的なビジネスだと言えよう。やっぱりマンガには不況なんて関係ないらしい。
※さて世界最大のマンガのお祭り、COMIC MARKET・通称COMIKEが今週末に開かれる。次号をお楽しみに!
Chikao Shiratori from Tokyo,Japan
1998/08
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